前回の看護学生の時の話の続きをさせていただきます。

いくつかの実習の中で、思い出すと、つい笑ってしまう思い出がある。

私が担当することになったのは、40代半ばの男性。離婚をしており、子供はいるが、疎遠となっているらしい。一人暮らしで食生活に問題があったせいか、そもそも遺伝的なこともあったのか、腎臓の病気をしていた。さらに腎機能が悪化しては困るので、側に付き添わせていただく3週間は、できるだけ安静を促すようにと看護師から伝えられていた。

腎機能の悪化はあるが、身体的には問題なく、特別何も症状がなかったため、その患者さんはとにかく元気。自分はなぜ入院しているのだろうか?と話すことが多かった。その患者さんの趣味はボクシングで、自宅で過ごしていた時、仕事をする以外の時間はボクシングジムに通い、通っていない時間は筋力トレーニングをして過ごしていたということ。だから、入院している間も体を動かしたくてしょうがない。暇な時間は、気がつくとシャドウボクシングをしている。常にやっていたから、自然と体が動いてしまうらしい。病院で患者さんが病衣を着たままシャドウボクシングをしている。病院で勤めた経験がある、今の私からすると、想像しただけで非常に面白い。そんな患者さんは働いてから会ったことがないから。

安静にするように看護師から言われていた私は、この患者さんの動きを止め、安静を促さないと。現役の看護師に怒られてしまう!と思い、あの手この手で関わってみた。まずは「安静にしないといけないと、医師が言っていましたよ。」と伝えてみる。そう伝えた直後は「そうだったなー。」と、動くのをやめる。ボクシングの事を忘れさせなくてはと思い、何げない日常の会話を話していると、彼の日常の中にはボクシングが含まれているため、ボクシングの話になってしまい、気がつくとまたシャドウボクシングをしている。日常の会話でもダメなのか・・・と、全く関係のない話をしてみる。それでも、話しながら自然とシャドウボクシングをしている・・・。まだ学生で、会話をするのが上手なわけではないため、どうすれば止めてもらえるのか、全くわからなかった。

病気について一緒に勉強すれば、運動してはいけないことを理解してくれるかと思い、教科書を持参するも、娘のような私に良いところを見せたいと、自慢げにまたボクシングを始めてしまう・・。

二人のやりとりは、思い出すと笑えてくるが、どうにか止めさせないとと、必死に関わっていた10代の私は、可愛らしかったなと我ながら思ってしまう。